S038薩州鹿児島征討記之内縣下ノ兇賊等肥後熊本旧城下江攻撃シ官軍應戰之圖
さっしゅうかごしませいとうきのうちけんかのきょうぞくらひごくまもときゅうじょうかえこうげきしかんぐんおうせんのず
明治十年三月三日御届
板元 熊谷庄七 小舟町三丁目十一番地
画工 月岡米次郎 南金六町十四番地
定價六戔
右図 本丸五重ノ天守
中図 巨魁篠原國幹、清正社
左図 巨魁桐野利秋、池上某
静岡県立中央図書館での分類は
請求記号 | K915-108-039-037 |
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画題(題名) | 薩州鹿児島征討記之内県下ノ兇賊等肥後熊本旧城下を攻撃シ官軍応戦之図 |
絵師(画工名) | 応需大蘇芳年印:月岡米次郎 |
版元 | 熊谷庄七 |
出版年 | 明治10年3月3日届(1877) |
員数 | 3枚続 |
版型 | 大判 |
彩色 | 錦絵 |
資料名 | 上村翁旧蔵浮世絵集(39) |
カテゴリ |
/浮世絵/31集~40集/39集-芳年 |
このページの画像は静岡県立中央図書館のデジタルデータを利用して構成している。また、データに関しては東京大学史料編纂所錦絵データベースを参考にした。
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静岡県立中央図書館のタイトルは「〜旧城下を〜」とあるが、「〜旧城下え〜」の読み間違いである。
この「薩州鹿児島征討記之内縣下ノ兇賊等肥後熊本旧城下江攻撃シ官軍應戰之圖」は大英博物館蔵B008および国立国会図書館蔵D109の異版である。既にB008とD109は比較の上大きな違いがないことは確認済みであるが、今回追加した静岡県立中央図書館蔵の作品は他の2枚と大きく違っているので、報告する。B008とD109は同じ日の刷であるが、このS038は翌日以降に刷った後刷りと考えられるのだ。中図に注目すると先の2枚にはない白煙が中央の背景に大胆に追加されている。馬上の篠原国幹は倒れ伏す薩軍兵士を救出するかのように官軍の眼前まで飛び込んでいるのだが、先刷りの2枚のグレーの背景の中では、前足をあげ上に向かっていななく馬の陰で、篠原のアクロバチックな姿勢はじっくり見ないと見極めにくい。背景に白煙を入れ、右手や槍を際立たせることで、この構図が、一瞬で見えるようになるのだ。また、全体的な構図においても、熊本城に攻め寄せる薩軍の包囲網がよりダイナミックに表現されているように思う。更に篠原の下に横たわる薩軍兵士には大量の血糊が追加されているが、リアリティというよりは表現がより扇情的にエスカレートしているようだ。細部を見ると、袴や篠原の馬の鞍から緑が消え黄色のみになっている。これも、コントラストを強くして、細部を際立たせる狙いかもしれない。中図左手の背景には清正社と森・山が描かれていたのだが、煙を書き加える過程で、濃いグレーの闇になっている。これにより、手を加えていない左図との連続性が多少危うくなっている。コントラストがきつすぎて、背景の山の連続性がわかりにくくなっている。整合性よりインパクトの強さをとったのだろう。 国立国会図書館蔵D109のページで指摘したように、国会図書館と大英博物館の2枚は色味と明暗の加減が多少違う程度で、色使いや構図は同じ訳で、当時の制作状況から見ると同じ日の刷ということで間違いがないだろう。つまり、朝のうちに顔料を調合しその日のうちに使い切る、そして、その顔料で刷るのは100枚から200枚程度だったらしいからだ。勝手な想像をすると、3月3日という、西南戦争勃発直後に売り出されたこの錦絵は飛ぶように売れてしまい、増刷するに当たって、より見やすく、派手で扇情的なものにマイナーチェンジされたというところではないだろうか。